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「市田さん、お忙しいところお呼びたてして申し訳ありませんね」
大澤は市田に形だけの詫びと礼を述べた。
「いや、とんでもない」市田は大澤の猿芝居に付き合った。
「ところで、うちの本田から聞いたんですが、最近我が社の担当者を朝岡さんに変更されたそうですね。市田さんの方で何か不都合でもありましたかな?」
大澤は鋭い眼光を放ちながら詰め寄る様に訊いた。
「いえ、別に何か特別な意味があってそうした訳ではありません。ただ、私の役職から言って内部的に御社の専任担当という扱いには出来なかったもので」
そう言った後、市田は自分に何かを言い聞かせるように話し続けた。
「もちろん、実質的に御社を担当しているのは私です。大澤さん、その点は心配には及びませんよ。ただ、弊社の内規がいろいろと事細かいもので、形式上、朝岡に担当を戻したのですよ」市田は担当替えの経緯を簡単に説明した。
大澤は市田が事前に何の相談なく担当替えをした事に納得がいかない様子であった。
「それじゃ、今まで通り御社との取引については何も変わらないと思っていていい訳ですな」大澤は高圧的な態度で市田に迫った。
「ええ、まあ」市田は曖昧に言葉を濁した。大澤はソファーの上で足を組み直すと話を続けた。
「ところで、我が社の株価なんですが最近下がる一方で、このままだと例の転換社債は転換されずに来年の8月には早期償還になってしまうのではないかと心配しています。何とか株価を上げる手立てはないもんでしょうかね。市田さんのお力で・・・」大澤はニタリと笑みを浮かべて、それが市田への暗黙の命令である事を誇示していた。事実、大亜精鋼の株価は転換社債発行時から約50パーセント下落して、現在400円台を推移していた。
「ただ株式市場もこの地合なんでね。何か材料がないと投資家も食らいついてこないでしょう」市田は渋い顔をした。
「材料ですか」さすがの大澤も市田一人の力ではどうなるものでもない事を承知しているのか、いつもと違ってやや肩を落としている様に見えた。
「M&Aでも仕掛けて、何か新たな展開でも見えてくれば良いんだけどね・・・」大澤がポツリと言った。その時、市田の脳裏には槙原が言っていたドイツの鉄鋼コングロマリットの部門売却の話が過ぎった。何かネタがあるはずだ。市田の長年の勘がそう言い続けていた。
「大澤さん、御社の弱いところはどこですか?」市田は唐突に訊いた。大澤は馬鹿にされたのと思い、険しい顔になって市田を睨み返した。市田はそんな大澤の気分の変化を察知して言い訳するように付け加えた。
「いや、私が言わんとしているのはですね、御社があまり強くない部門を強化する為に買収を仕掛ける事によって、投資家に御社のことをアピールしようということなんです。そうすれば投資家達もその話を評価して御社の株を買ってくるでしょう」
大澤は市田の意図を理解すると暫く思案してから答えた。
「そうですね、敢えて言わせてもらえばステンレス鋼の部門ですね。世界における我が社のマーケット・シェアは約5パーセント程度ですから。この分野の国内の競争相手のオリエンタル精鋼は30パーセントのマーケット・シェアですからね。大きく水をあけられています」  
市田は大澤の話を聞き終えると、右手で顎を擦りながら言った。
「大澤さん、場合によっては面白い案件が仕掛けられるかもしれませんよ」
「一体、どんなことが出来ると言われるのですか」大澤は半信半疑の面持ちで訊いた。
「まずはいろいろと調査してみませんと…」市田がもったいぶった言い方をした。
「市田さん、また、この件は宜しく頼みますよ。私は義理堅い男ですから、お礼はそれなりにさせてもうらうつもりです」大澤はそう言うと、遠巻きにこちらの方を覗っていた優香ママに目で合図を送った。優香は店の女の子を2人連れて大澤たちのテーブルにやって来た。
「大澤さん、難しいお仕事の話は終わったようね」優香は待たされた事を愚痴るようにすねてみせた。
「いや、待たせてごめん、ママ。まあ、こっちに座って」大澤は強引に優香の手を掴むと、自分の隣に座らせた。他の2人の女の子を交えて、大澤たちはたあいのない話をしたのであった。
 
翌日、会議室で市田はM&A担当の番場和彦と顔を突き合わせていた。例のドイツの鉄鋼コングロマリットの部門買収の件を何とか大亜精鋼のM&Aに結びつけられないかを検討する為であった。大澤源太郎は株価を上げる為になるのであれば多少の無理は承知で買収を仕掛ける事に同意すると市田は読んでいた。それにこの案件が出来れば数億円の手数料が稼げる。
「番場、その後うちのロンドンの連中からは何か連絡はあったのか」
「ええ、フランクフルトのスタッフがこのドイツのベンゲン社を担当していて、詳細な資料を送ってもらいました」番場は用意したコピーを市田に手渡した。
「先方はかなり幅広く多角化をしていて、その中にステンレス鋼の部門もありますね」
番場は会社概要の組織図を見ながら言った。
「フランクフルトからの報告によればこの部門は同社のコア・ビジネスでは無いようです。既にドイツの大手投資銀行を部門売却のアドバイザーに採用しているようです。ですからうちとしては買手をみつけて、そちら側のアドバイザーにつきたいようです」
「やつらのステンレス部門の世界でのシェアはどの位なんだ」市田が訊いた。番場はレポートを捲りながら答えた。
「約20パーセントくらいですね」
「これを買収すれば大亜精鋼のシェアは25パーセントになる訳だ。競合会社のオリエンタル精鋼とほぼ同じレベルになるな」市田がしたり顔で言った。
「それに大亜精鋼はアジア市場は制覇していますが、ヨーロッパの方が今ひとつだから、これによってグローバルに足場を固める事も出来ますから」番場が補足した。
「それじゃ、来週にでもこの話を大澤社長の所にもって行くぞ。早急に提案書を作ってくれ。それから、フランクフルトの担当者にも東京に来てもらうようにするんだ」
「わかりました」番場は従順に返事をした。
市田は急に思い出したような顔をして付け足すように言った。
「それから、大亜精鋼の担当は投資銀行部の朝岡になっているから、奴にも一緒に来るように指示をしておけ」
 
翌週、市田は番場と朝岡慎介を連れ立って大亜精鋼の大澤源太郎を尋ねた。市田は予め訪問の主旨を大澤に電話で伝えていた為か、大澤はミーティング中終始、ご機嫌なムードであった。
「市田さん、本当におたくの情報力のすごさには感服していますよ」大澤は心にも無いことを口にした。
「いやいやとんでもない。ただ、私共は何とか御社のお役に立てればと思っておる次第ですから」
「いや、まさにこの提案書にあるステンレス鋼部門は弊社にとっても、問題の種でして、よそほどマーケット・シェアが取れていないので、全体の収益にあまり貢献していなかったんです。売却も1度検討はしたのですが、買い叩かれてしまうのが目に見えていましたから、どうしたもんかと思っていたんですよ」
「弊社の調査によれば御社がこのドイツのベンゲン社から検案の部門を買収すれば、マーケット・シェアも25パーセントになり、コストの削減とスケール・メリットからその他の部門と同レベルの収益があがるようになります。結果として、御社の企業価値は向上し、その点がマーケットでも注目されて、投資家が再び御社の株を購入するようになるでしょう」番場が説明した。そんな付け焼刃のM&Aで株価が簡単に上がったりするわけがない。朝岡慎介はそう思いながら横で黙ったまま番場の話を聞いていた。それに買収資金の手当てだったどうするというのだ。大亜精鋼にそんな余裕資金はなかった。
「市田さん、これは我が社にとってもまたと無いチャンスです。ぜひこの話はうまく進めて下さい」
「それじゃ、私どもを御社の本買収案件のアドバイザーとして契約して頂けるのですね」
「それは、もちろんです。但し、失敗は許されませんよ。頼りにしていますからね」大澤源太郎が不敵な笑みを浮かべたのを慎介は見逃さなかった。大澤が続けた。
「ところで、この買収にはどのくらいの資金が必要になるんですかな」
「ざっと、今の株価をもとに試算すると約2百億円程度ですね」番場が資料を捲りながら説明した。
「2百億ですか」大澤がため息を漏らすように言った。
「今、我が社の手持ちの資金で使えるのはせいぜい50億ってところですね。あと、保有している有価証券の一部を売却すれば約50億程度は捻出できます。残りの100億は調達しないといけませんね。また、市田さんのところで何とか100億ぐらい調達してもらえませんかね」
「もう、それはよろこんでお手伝いさせてもらいますよ」市田はファイナンスから入る手数料のことしか頭に無い様子であった。そんな市田の様子を見かねて慎介が口を挟んだ。
「ただ、先回発行された社債がまだ残っていますから、どのぐらい調達できるか、確認してみます。場合によっては銀行からの借り入れも一部いれてもらった方が良いかもしれません」
水をさされた格好になった市田は慎介を睨みつけるように言った。
「朝岡、そんな事はおまえさんが心配しなくてもいいんだ。俺がやるといったら100億ぐらいの金はいつでも集まるんだよ」
「市田さん、いつもながら心強いですね。本当に頼りにしていますよ」大澤は満面の笑みをたたえていた。
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