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「ユナイテッド・リバティーの方がおみえになりました」
女は由右子を中にいれるとドアを閉めて受付に戻って行った。
「やあ、由右子ちゃん。遅かったね」槙原が声をかけた。
「すみません。こんなに遅れてしまって。最後のミーティングが予定よりも長引いてしまって・・・」
「まだ、入社したばかりだからそんなに身勝手も言えないしね」慎介が由右子に代わって弁解した。
「まあ、来てくれて良かったよ。これで当面の役者がそろったわけだな。それじゃ、今後の作戦を話そう」槙原が言った。由右子も事前に慎介から槙原の立てたM&A絡みの罠と慎介のアイデアについては聞かされていた。それから、由右子は大亜精鋼の事が気になって、朝夕にブルームバーグで株価をチェックするのが日課になっていた。アナリストの鈴木太郎がドイツの会社の部門買収をネタに『買い推奨』のレポートを書いて、株価は上昇基調にあった。
「槙原さん…」由右子が不安を隠しきれない顔をした。
「由右子ちゃん、何か思ったことがあるんだろう。遠慮せずに言ってみて」槙原は素早く由右子の様子を察知して言った。
「ええ、たしか槙原さんの筋書きでは大亜精鋼の株価は買収後に下落する事になっていたんですけど、うちのアナリストの鈴木さんが大々的に買収の成功を強調して『買い推奨』のレポートを出してから一本調子で株価は上昇しているんです…」
「何だそんな事か。それなら今慎介とも話しをしていたんだけどね。もう次の手は打ってあるんだ」槙原は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「それはどんな手なんですか」由右子は先を急いだ。
慎介が槙原に替わって説明した。
「今回の買収は大亜精鋼にとって明らかに高い買い物だったんだ。市田の命令で鈴木さんは好意的なレポートを書かされているが、それは実体からかなり乖離しているんだ。ここでその実体を忠実に暴露するレポートが大手の証券会社から出たらどうなると思う」
「でも、一体誰がそんなレポートを出すと言うのですか」由右子が訊いた。
「僕の大学時代の親友が今米系の証券会社、ブル・ジェラルド社で調査部の部長をやっているんだ。先週末、そいつとゴルフに行った時に大亜精鋼の今回のM&Aの件を話したら、関心を持ってくれてね。奴のところの鉄鋼・非鉄のアナリストはランキングも第2位でなかなか評判も高いらしいんだ。そのあと早速、アナリストにチェックさせたら、即『売り』という答えが返ってきたらしく、買収の件も含めて面白そうだから、来週にでも『アンダーパフォーム(株価が今後値下がりする可能性が高いことを示唆する)』のレポートを出してくれる事になったんだ。本当は他の伝手を頼ろうと思っていたんだけど、渡りに船って感じで奴が引き受けてくれたんだ。とにかく大亜精鋼の株は市田の策略で上がっているけど、ここで事実が明るみで出れば、上がった分だけ加速度がついてフリーフォールのように墜落するって寸法なんだ」
由右子は目を見開いて槙原の話しを食い入るように聞いた。槙原は由右子の様子をちらちらと見ながら話しを続けた。
「これで第1幕はめでたく終了となり、慎介の描いた第2幕へと舞台は展開されるんだ」槙原は片目を瞑ってウィンクをして慎介に合図を送った。
「続きは総合プロデューサーの慎介にお願いするよ」槙原は慎介に後を譲った。
「由右子ちゃん、第1幕はこれで槙原さんの筋書き通りに終了する。問題はここからなんだ。前にも僕の考えは話したけど、ここでもう1度整理してみよう」慎介は立ち上がると部屋の壁面に取り付けられていたホワイトボードに歩み寄った。青いマジックで慎介は市田に対する罠の一連の流れを書いていった。槙原と由右子は慎介がホワイトボードに書く一連の流れを黙ったまま見つめていた。書き終えると慎介は2人の方に向きをかえた。
「大亜精鋼はこのままいけば来年の8月には200億円を返済しなければならなくなる。今回の買収で大亜精鋼の借金は約100億円膨らんでいるから、これ以上金融機関からの借入は難しいだろうな。まずそうなれば大澤源太郎は市田に再び市場から資金を調達する様に迫る筈だ。転換社債がまた発行出来るかどうかは別として、前の転換社債200億円を返済する際に送金の手配をする事になる。過去の経緯からして大亜精鋼の財務部長の本田は送金にメイン・バンクの東名銀行を使うはずだ。ここでその資金の送金先を本来の返済の為の口座にではなく、例の市田のチューリッヒの本店にある匿名口座にするのさ」
「でも、実際にそれをどうやって仕組むの」由右子が疑問を率直に述べた。今まで目を輝かせて話しをしていた慎介の顔に暗い陰が広がり始めた。助け船を出すように槙原が言った。
「そこで清水学の助けが必要になるんだ。奴ならプライベート・バンクのカラクリを1から10まで知り尽くしているからな」
「それじゃ、清水さんに早速お願いしましょう」いとも簡単に由右子が言った。
「由右子ちゃん、そんなに簡単じゃないんだよ。学にはプライベート・バンカーとしての立場があるんだ。顧客の秘密は何があっても漏洩してはならないという鉄の掟があるんだよ」
「でも、市田は犯罪者じゃないですか。私の姉を殺したんですよ、あなたの婚約者を…」激して由右子の目はいまにも零れ落ちそうな涙で光っていた。
「由右子ちゃん、落ち着いてくれよ。僕も市田と大澤が菜緒子を殺した犯人だと思っている。でも僕らには決定的な物的証拠は何もないんだ。すべてが状況証拠の域を出ないんだよ。それじゃどうにも太刀打ち出来ないんだ。学の事は僕に任してくれ。少し時間が必要なんだ。奴にだって奴の生活があるし、人生があるんだ。それを僕らの復讐の為にすべて投げ出せなんて頼めないよ。でも、奴なら何らかの方法で僕らの力になってくれるさ、きっと…」慎介の言葉には力がこもっていた。
「由右子ちゃん、ここは慎介に任せてみようよ。それにこれは慎介が考えた罠だからね」槙原は諭すように優しく由右子に言った。
「わかりました。慎介さん、私に出来る事があったら何でも言いつけて下さい」
「ああ、今後いろいろとお願いする事が増えると思うから、宜しく頼むよ。それから、これからは会社内では出来るだけ距離を置くようにしよう。特に由右子ちゃん、君はエクイティー部長の本山には気をつけて、奴は市田の一番の犬だからね」
慎介は自分のプロットが動き出しているのを肌で感じていた。もう後戻りは出来ないんだ…
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