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飯野由右子は同僚の女の子達とのランチの約束を断って正午過ぎにオフィスを出ると足早に10分程歩いた。JR山手線の上にかかる橋を渡り、その先の突き当たりのT字路を左にそれて目黒方向に向かった。途中でバックから携帯電話を取り出すと、朝岡慎介の番号に電話をかけた。2回の呼出音の後、慎介が電話に出た。
「由右子ちゃん」慎介は待ちかねていた様に由右子の名前を呼んだ。
「慎介さん、ついに始まりましたね」
「ああ、筋書き通りにね」
「今朝、エクイティ部長の本山さんが血相変えてアナリストの鈴木さんの所に来て話しているのを盗み聞きしたんです」
「由右子ちゃん!」慎介が不安を露わにした。
「心配しないで下さい。慎重にやっていますから」
「それで2人は何を話していたんだい」慎介が訊いた。
「鈴木さん、やっぱり市田たちに強要されてあのレポートを書いたって事を言っていました」
「そうか・・・、由右子ちゃん、鈴木さんの事は今後注意してみていてくれないかな」
「ええ、私もそうしようと思っていたところです」
「でも、あくまでも距離を置いてくれよ。まだ今は深追いは禁物だ」
「はい、その点は十分理解しているつもりです」
「OK、それじゃ今後の連絡は全て携帯電話か自宅の電話にしよう」
電話を終えると由右子は携帯電話の液晶パネルに視線を落とした。画面の壁紙には死んだ菜緒子と2人で撮った写真が映し出されていた。慎介さんと一緒にお姉ちゃんの仇は討つからね。由右子は道に立ち尽くして、独り事のように口にした。そのアーモンドの様な形の目に溢れんばかりの涙をたたえて。
 
鈴木太郎が入手したブル・ジェラルド証券のアナリスト黒澤拓哉の書いた大亜精鋼のレポートのコピーを前にして市田、本山憲造、番場和彦、朝岡慎介の面々はミーティング・ルームに集まっていた。重苦しい空気が4人を包んでいた。市田が怒りのやり場に困った様子で言った。
「何てことをしてくれたんだ、この黒澤と言う若造は・・・」
誰も市田に何と言ったらいいのかわからずにただ下を向いて黙っているだけだった。市田はまず矛先を番場に向けた。
「番場、何とか言えよ。おまえはM&Aの責任者だろう」
市田の勢いに気圧されて番場は渋々応えた。
「黒澤さんはアナリスト・ランキングも2位の売れっ子で、影響力も大きいですよ。うちの鈴木さんじゃとても太刀打ちできませんよ。それに入札でかなり無理をしたのは事実ですから」
「馬鹿野郎!」市田の罵声が飛んだ。
「おまえは何を言っているんだ。このまま負け犬になるつもりか」市田の怒りに満ちた声が部屋の空気を震わせた。市田が少し落ち着くのを待って番場が言った。
「市田さん、ここからリカバー・ショットを打つのはかなり困難です。何かよほどの切り札がないと・・・」
市田自身、そんな事は番場に言われるまでもなく重々わかっていた。市田は何も言わずに腕を組んで憮然とした表情で席に座っていた。
「それよりも、私が気になるのは・・・」番場は続けた。その一言に市田が反応した。
「何か気になる事があるのか?」市田は先を急いた。
「ええ、気になっているのは何故売れっ子のアナリストの黒澤さんが今まであまり見向きもしなかった大亜精鋼のレポートをそれも『アンダーパフォーム』で、このタイミングで書いたかということなんですよ」
隣の席で慎介は黙って番場の話に耳を傾けていた。
「何か変だと思いませんか、市田さん」番場が訊いた。
「そう言えば確かに腑に落ちない点は多々あるが、今の俺達にはそんなことはどうでもいいんだ。それよりも大切なのはこの状況をどう乗り切るかってことだ」市田は番場の疑問など無視して答えの出ない議論を続けたのであった。
 
9月の終り頃には大亜精鋼の株価は直近のピークから3割以上下落し、400円台後半で推移していた。9月の半ばから海外出張に出ていた大澤源太郎は9月25日に帰国した。大澤は最後の訪問地であるジャカルタから市田との面談の約束をとりつけていた。大澤は社用車で成田空港から本社に直行した。午前8時50分に車は大亜精鋼の本社ビルの正面玄関に到着した。玄関には大澤の秘書が待機していた。車を降りると大澤は秘書に声を掛けた。
「社長、お帰りなさいませ。ユナイテッド・リバティーの市田様が先ほどよりお待ちになっています」
大澤は黙ったまま肯くと右手に持ったアタッシュ・ケースを秘書に手渡して、待たせてあった役員専用エレベーターに乗り込んだ。秘書が一歩遅れて同じエレベーターに乗ると扉が閉まりエレベーターは上昇を開始した。その僅かな時間に秘書は連絡事項を大澤に的確に伝えた。社長室と役員室のあるフロアにエレベーターが着いて扉が開くと他の役員付きの秘書の1人が待ち受けていて、大澤に黙礼をして、大澤の秘書に市田が待つ応接室の場所を伝えた。秘書はそのまま、大澤を市田の待つ部屋に案内した。軽くノックをして大澤を部屋の中に通すと、伏し目がちに目礼をして退出して行った。大きな体躯をした大澤が入室してくるのを見て、市田は座っていたソファーから飛び上るように腰を浮かせて挨拶をした。
「大澤社長、お帰りなさいませ」
大澤は既に海外から何度か市田とは連絡を取り合っていて、ある程度ことの成り行きについては把握していた。大澤は市田の反対側のソファーに腰を落ち着けると不機嫌さを露骨に出して言った。
「市田さん、これは一体全体どういう事なんですか」
「それは電話でもご説明申し上げました様に・・・」市田は再度今回の件の原因について説明を試みたが、大澤がそれを制するように口をはさんだ。
「市田さん、いまさら原因がどうのなんて事は何も聞きたくないんですよ。今後、おたくのほうでこの問題をどう処理していただけるのか、その方法論を是非お聞かせ願いたいんです」
「どのようにと申しますと?」市田が訊いた。
「市田さん、とぼけてもらっちゃ困りますよ。私はあなたの話を信じて今回の買収案件にのぞんだんですよ。それがフタを開けてみるとどうですか。あなたは私を落とし入れようという魂胆なんですか。それなら私にも考えがありますよ」大澤は訳知り顔で口元に不気味な笑いをたたえていた。
「いやとんでもない、私はそんな事これっぽっちも思っていませんよ」市田は狼狽した。
「とにかく今回うちはプロのアドバイザーとしておたくと契約をしたんですよ。それが我が社にこんな不利益をもたらしている。場合によってはおたくを提訴する事も考えますからね」大澤の鋭い目が市田を哀れな獲物としてしっかりと捕らえていた。
「そんな事・・・」市田は緊張のあまり喉がカラカラに乾き、声すらまともに出なかった。
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