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台風17号が関東地方に接近していた。お昼過ぎには東京23区も風速20メートル以上の風が吹き荒れる暴風圏にすっぽりと包まれた。横殴りの雨がシティ・スクエアのオフィスのガラス窓にも叩きつけていた。慎介は午後に予定していた弁護士とのミーティングを翌日に延期してもらった。予定がぽっかりと開いてしまった慎介は突然思いついたように受話器を手にとると清水学に電話を入れた。
「はい清水でございます」数回の呼出音の後に清水学が出た。
「学、慎介だけど・・・」
「やあ慎介どうしたんだい?」学が訊いた。
「今からちょっと時間もらえないかな」
「ああ、いいよ。この台風で午後に入れていた客とのミーティングをちょうどキャンセルしたところなんだ」
「それじゃ10分後にお邪魔してもいいかな」
「ああ、構わないよ」
慎介は電話を切ると、25階のプライベート・バンクのオフィスに行くためにエレベーターに乗った。エレベーターを降りると清水学がそこで待っていた。二人は肩を並べて、プライベート・バンクの玄関に向かった。学はプライベート・バンク専用のセキュリティー・コードが入力されたカード・キーでガラスの正面玄関を開けると、慎介を中に通した。玄関ホールの突き当たりにある応接室に慎介を入れると、学は中から鍵をかけて慎介の顔を見た。
「人に聞かれるとまずい話なんだろう」学が訊いた。
「まあな」慎介は短く返答した。
「まあ、そこに座れよ」学は慎介にソファーを勧めると自分も反対側の椅子に腰を落ち着けた。窓の外では激しい風がこわれたオカリナの様な悲しい音を響かせていた。2人は暫く荒れ狂う外の台風の様子を眺めていた。そのうちに清水学がおもむろに口を開いた。
「大亜精鋼の株の件は大変だったな」
「その事はもう聞いているのか。早耳だな」慎介が感心するように言った。
「ご存知のように、大澤社長はうちの大切な顧客だからね。それで実際のところどうなっているんだい?」
慎介は学の質問にどう答えるかやや思案してから、今までの経緯を学に打ち明けた。買収案件も槙原と一緒になって罠を仕掛けた事まで詳細に。清水学は驚愕の表情で慎介の話を食い入る様に傾聴したのであった。話を聞き終えても、暫く学は眼前に出された事実が絵空事の様に思えてならなかった。夢ならば一刻も早く覚めて欲しかった。しかし、それは確固たる事実として、その存在感を増しながら目の前に居座り続けていたのだった。学は慎介の固い意志と決断を改めて確認した。
「慎介、おまえ本気で市田に復讐するつもりなんだな・・・」
「ああ、もう後には引けないんだ。もうルビコン川は渡ってしまったからな。学、この計画にはどうしてもおまえの協力が必要なんだ。手を貸してくれ、頼む」慎介は深々と頭を下げた。
「慎介やめてくれよ、そんな事。それに前にも言ったけど僕はプライベート・バンカーとしての職務は全うしなければならないんだ。僕にはプライベート・バンキングのルールを破る事は出来ないんだ・・・」
「学・・・」慎介の顔に失望の色が広がった。
「慎介、すまない」そう言うと清水学はしばらくの間黙って考え込んだ。窓の外では風雨がその勢いをさらに強めていた。清水学は遥か昔を回想するかのように遠い目をして、嵐に煙る東京の街を見つめた。学は大学を卒業して、銀行に入行した頃のことをふと思い出した。4月に入行して、6月にプライベート・バンクに配属が決まると、7月から約半年間スイスのチューリッヒの本店でプライベート・バンカーになるための徹底した研修が行われた。その研修では、プライベート・バンクの守秘義務の重要性が徹底して叩き込まれた。命に代えても顧客の秘密は守らなければならないという鉄則である。しかし、同時にプライベート・バンカーは如何なる不正な取引にも加担してはならない事も教えられた。麻薬、密輸、犯罪に絡む資金については細心の注意を払う事がプライベート・バンクの名声を維持していく上で如何に重要なことであるかも徹底的に教育されたのである。あの時の初心に返って、学は今自分が置かれている状況を見つめ直そうとしていた。それに自分はすでに市田と大澤のインサイダー情報に基づくと思われる株の取引が記された明細の写しを慎介に見せていた。自分の心の中では市田と大澤をクロと決め付けていた。ただ、それを決定づける何かが自分の手の中に無いことが清水学をここまで迷わせていたのだ。学は自分を納得させるだけの何かが欲しかった。それがあればこんなに良心の呵責に悩まされなくても済むはすだ。それが決定的な物的証拠でなくてもいい。自分の本能に訴えかけてくれるような何かであればそれでよかった。
慎介は学の心中を察するかのように声をかけた。
「学、おまえをこんなに苦しめてしまって、本当にすまない。でも、俺は自分が最も愛した人を私利私欲に固まったあの下衆な野郎たちに奪われてしまったんだ。俺は奴らの事が絶対に許せない。この事にけじめをつけなければ俺は今後どう生きていったらいいかさえわからないんだ」慎介は嗚咽混じりの声を上げて、その眼光鋭く光る目からは熱い液体が溢れだし両頬を濡らしていった。
そんな慎介の様子を目の当たりにして清水学は居たたまれなくなった。清水学は暫く目をそらしていたが、改めて慎介の方に向き直ると、何かを決意した様な顔つきで言った。
「慎介、僕なりにおまえの気持ちはわかっているよ。でも、僕は僕で悩んでいるんだ。もう暫く時間をくれないか。必ず結論を出すから」
「学・・・」
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