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「清水さん、それでは私はそろそろ失礼するよ。次があるんでね」
学も席を立とうとしたが、大澤が制して言った。
「清水さん、あなたはその葉巻をもう少し楽しんでから帰ればいい」そう言うと大澤は学に別れを告げてシガー・バーのエントランスに向かって歩き出した。ウェイターが大澤を見送って入り口まで出て行った。しばらくするとウェイターが戻ってきて学の灰皿を取り替えた。客は学1人であった。ウェイターは永年の経験からくる仕事上の勘で、清水学は歳は若いが明らかにこういう店に慣れていると見抜いた。それに相手が大澤だ。これはきっと上客になってもらうチャンスだと瞬時に判断した。このような店では客もまた店の調度品であり、ステータスを保つためのバロメーターなのだ。ウェイターが自分に対して好意的であるのを感じた学は先ほどから気になっていたことを訊いた。
「さきほど僕が来た時に入口のところでぶつかりそうになった人だけど、大澤さんの連れだったの?」
ウェイターは怪訝そうな顔をしたが、曖昧に頷いた。
「あの人って、これなのかな」学は人差指を自分の右頬を切りつけるように目尻から口元にかけて走らせた。
「さあ、わたしも初めてお見かけするお客さんだったんで、よくはわからないんですけど・・・」
まだ時間が早く、客が入ってくる気配も無くウェイターは学と話す事がちょうどよい時間潰しになり、まんざら嫌でもない様子だった。
「でも、多分そうだと思いますよ。小指の先が無かったし。態度もその筋の方そのものでしたし・・・ あまり、うちの雰囲気にはそぐわないお客様でしたね」
「サウナみたいに『刺青の方お断り』って入り口の所に貼っておけば」学が冗談めかして言った。ウェイターは笑って、リラックスした雰囲気で応えた。
「そうですね。葉巻用ですけれどロッカーもありますしね」
「大澤さんはよく来られるのかな」学が訊いた。
「ええ、お得意様で、うちにも葉巻用のロッカーをお借り頂いています。でも最近はお忙しい様でせいぜい月に1回お見えになる程度ですね。大澤さんとはお仕事の関係か何かですか?」
「ええまあ、そんなところですね」学は曖昧に答えた。
「ところで大澤さんはさっきの人と何を話していた?」学はさり気なく訊いた。
「お2人とも声を落としてひそひそと話されていたので、何を話されたいたかはちょっと。ただ・・・」ウェイターがそこで言葉を切った。
「ただ」学が先を急いた。
「マニラの仕事がどうのこうのって男が言って、大澤さんの機嫌が急に悪くなってマニラの事は2度と口にするなって怒った様子で言われていましたね。それ以外の事は私は何も。あとはほとんどカウンターの中にいましたから」
「大澤さんはマニラって言っていたんだ・・・。何かマニラで新しく仕事でも始めるのかな?」学はそう言ってウェイターの前でその場を取り繕ったが、心の中ではけたたましく警鐘が鳴り始めていた。ヤクザ者──マニラの仕事──飯野菜緒子の事故──他殺の疑い。今まで学が朝岡慎介や飯野由右子から聞いていたことが1本の線になって繋がろうとしていた。
 
今世紀も余すところあと5日。連日、テレビ・ラジオなどのマスメディアは『ミレニアム』騒ぎに浮かれていた。そんな街の喧騒をよそに大亜精鋼の役員室に市田昭雄は本山憲造、朝岡慎介を連れて固い表情をして座っていた。待たされること20分、大澤源太郎が財務部長の本田千秋を連れて入ってきた。3人は席を立つと大澤と本田に挨拶をした。再び5人は席につくと大澤が口火を切った。
「ご足労頂き有り難うございます。早速ですがお集まり頂きましたのは以前に発行しました転換社債の事です。どこかの馬鹿なアナリストが余計なレポートを書いてくれたおかげで、我が社の株も下落の一途を辿っています。現状から判断して、来年の8月までに株価が戻らなければ転換社債は満期よりも1年早く償還されることになり、ついてはその資金を手当てしなければなりません。約200億円の資金です」大澤の睨みつけるような視線は市田だけに集中していた。
「この資金繰りについて、我が社の考えを本田の方から申し上げます」大澤はその先を本田に振った。
「弊社も今回の買収で仰山お金使いましたんで、来年の8月に転換社債を返済する事になったら、再度市場から調達するしか方法はありません。現在、銀行からの融資枠は目一杯使っていますので、それ以上の借入を銀行からとりつけるのは実質不可能です」
「つまり、再度市田さんのところで社債発行をお願いするしか選択肢はないという事ですな」大澤は有無を言わせない態度で市田に迫った。
市田は返答に窮していた。ここで一言も発せずに聞いていた慎介が見るに見かねて口をはさんだ。
「でも現在の株価で200億円の資金を調達するのはかなり無理があると思われますが。それに新たに転換社債が発行できたとしても、さらに株が売られる原因をつくる事になるだけですが・・・」誰もが気にしている点を慎介は敢えて指摘した。大澤はじろりと慎介を睨むと平然とした態度で市田に向かって言い放った。
「まだ来年の8月までには時間もある事ですし、そこを何とかして下さるのが株のプロの市田さんの力量じゃないですか」
市田は座ったまま苦笑するだけであった。財務部長の本田が追い討ちをかけるように言った。
「市田はん、宜しく頼みます。もうこれ以上銀行に無理は言えまへんさかい」
目の前で展開される市田と大澤のやりとりを聞いて、慎介は何か陰謀めいたものを感じた。大澤と市田の間には仕事を超えた何かがあると。
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