TOKYO IPO スマホ版はこちら
TOKYO IPOTOKYO IPOは新規上場企業の情報を個人投資家に提供します。



第1部

第2部
     


なぜ今、コモディティなのか?

女性のライフプランと公的年金

運用を取り巻く環境を考えよう

オンナのマネースタイル

■資産運用ガイド
いまさら聞けない株式投資の基本


意外と知らない?!投資信託の基本


試してみたい!外国株の基本


慣れることから始めよう外貨投資の基本


お金持ちへの第一歩 J−REIT


アパート・マンション経営


IPO最新情報や西堀編集長のIPOレポート、FXストラテジストによる連載コラム、コモディティウィークリーレポートなど、今話題の様々な金融商品をタイムリーにご紹介するほか、資産運用フェア、IRセミナーのご案内など情報満載でお届けしています!
東京IPOメルマガ登録


IPOゲットしたい!口座を開くならどこ?
FX(外国為替証拠金取引)ってなに?
FX人気ランキング
知らないと損しちゃう!企業の開示情報



第31章
 
2001年1月東京
 
1月3日、正月三箇日の東京の街はいつもの喧騒が嘘の様にひっそりと静まりかえっていた。地下鉄日比谷線の広尾駅で朝岡慎介は飯野由右子と清水学と待ち合わせをしていた。東急東横線の中目黒駅で地下鉄日比谷線に乗り換え、2駅目が広尾駅である。ホーム後方の階段を上り、改札を抜けると幅の狭い歩道で由右子と学が話をしているのが目に止まった。
「ごめん。俺遅刻かな?」慎介は二人に声をかけた。
「大丈夫、僕らの方が早く着いちゃったんだよ」学は腕時計に目をやりながら言った。
「さあ、行きましょう」由右子は2人を促して、外苑西通りを西麻布方向に歩き始めた。しばらく行くと左手に若者の間ではやっているカフェが既に営業していた。昔は正月の三箇日は全てのお店が閉まっていて、それがお正月独特の雰囲気を醸し出していたのに、最近の合理的な商業主義は昔からの日本の伝統をガン細胞のように食いつくそうとしていた。慎介はそんな風景を見て何だかとても虚しい気持ちを覚えた。しばらくすると3人は外苑西通りから左にそれて、坂道を上って行った。坂を上りきったところに洒落た外観の地上5階建てのマンションが3棟、コの字型に大小の木々を配した森をイメージした空間を取り囲むように建っていた。森の中には小道が施され、その道は途中で3つに分かれて、それぞれの棟の玄関に通じていた。3人は教えられた通り左側の道に入って行った。1号棟のマンションの玄関に着いた。木目調の扉に正方形のガラスの小窓が縦に4つ並べられた自動ドアが左右に開いた。中は明るめのクリーム色の大理石の床で、その奥にもう1つの自動ドアがあった。右側の壁にオート・ロック用のカメラと呼出パネルが取り付けられていた。由右子が5・0・3と数字ボタンをおして最後に『呼』と書かれたボタンを押した。パネルのスピーカーから槙原の声がした。
「どうぞ、入って」その後、中の自動ドアが低い音を立てて開いた。3人は奥へと続くホールに吸いこまれるように入ると、突き当たりにあるエレベーターに乗りこんで5階を目指した。5階でエレベーターを降りると503号室は左手の奥にあった。慎介が玄関のインターフォンのボタンを押すとドアが開いて槙原が出てきた。
「やあ、みんないらっしゃい。さあ中に入って」
槙原は3人を30畳はあると思われるリビング・ルームに通した
「赤ワインでもいいかな」槙原は3人に訊いた。
「槙原さん。お構いなく」慎介が遠慮がちに言った。
「私、何かお手伝いしましょうか」由右子が申し出た。
「まあ、いいからみんな座って寛いでいてくれよ」
暫くすると,槙原がトレイに4つのワイン・グラスとフランスのブルゴーニュの赤ワイン『ジュベール・シャンベルタン』をのせて現れた。
「お昼だから軽めの赤にさせてもらったよ」槙原はそう言ってグラスにワインを注いだ。上等なルビーのような色がグラスの中で踊った。槙原は3人にグラスを渡すと最後に自分のグラスを手にしてカウチに腰をおろした。槙原は3人の顔を見渡すと言った。
「乾杯しようか」3人は頷くとグラスを静かにあわせた。クリスタル・グラスの軽やかな音が響いた。
「慎介、例のプロジェクトもいよいよ本筋にはいってきたな」槙原が慎介を励ますように言った。
「みんなが協力してくれたお陰です。特に学にはいろいろと無理を言ってすまないと思っている」横に座っていた清水学が恥ずかしそうに応えた。
「慎介やめてくれよ。あっ、それからちょっと気になる事があったんですよ・・・」学は年末に大澤源太郎から呼び出されて代官山のシガー・バーに行った時の事を語った。話を聞き終えると由右子が確認するような調子で訊いた。
「そのヤクザ風の男は『マニラの仕事』って言っていたのね」
清水学は黙って頷いた。慎介もいつになく険しい表情で話を聞いていた。槙原がみんなが心に思った事を口にした。
「それは多分例のマニラの事故の事を話していたんじゃないかな」
「僕もそう思いました。今お話しした様に、その男がマニラの事を口にした時、大澤の機嫌が急に悪くなって、その事を2度と口にするなと男を諌めたという話ですから。大澤は明らかにそのマニラの事は隠しておきたい様です」
「僕が記憶している限りでは、大亜精鋼はフィリピンには工場など何も持っていなかった筈だから、大澤がビジネスでマニラと関係があるとは思えないね」慎介が思案顔になった。
4人は各自考えられるシナリオに考えを巡らせた。グラスの赤ワインを一口飲んでから槙原が慎介に向かって言った。
「慎介、これからどういう風に計画をすすめていくつもりなんだい」
慎介は真剣な目つきで3人の顔を見渡した。
「大亜精鋼のファイナンスの話はほぼ間違い無く決定です。現在残っている転換社債200億円は8月に返済しなければなりません。昨年の秋にしかけた買収でかなりお金を使ってしまっているので新たに200億円全額の融資を銀行からとりつけるのはっきり言って不可能です。一部はやはり市場からの調達という事になるでしょう。この件では市田も相当大澤に追い詰められている様です」
「その8月の返済の時に罠を仕掛けるんだね」確認するように槙原が言った。
「そうです。でもこの罠を成功させる為には学の協力が欠かせないんです」慎介は横にいる学の事を見た。清水学は思いつめたような表情で目の前のテーブルに置かれたワイン・グラスを見つめていた。学自身、慎介の力になってやろうと心では決めていた。しかし、プライベート・バンカーとしての何かが学にその最後の引き金を引かせていなかった。
「清水さん、お願します。力を貸して下さい」由右子の悲痛な声が響いた。
清水学は顔を上げると慎介と由右子の真剣な目を見た。学は今日ここに来るまでに自分なりに決断していた。学は自分の煮え切らない気持ちを鼓舞するように言った。もう自分自身の結論は出したじゃないか。大澤と会っていたヤクザ風の男が話していた事だけでも十分に自分の疑念を裏付けているじゃないか。学は葛藤の苦悩を顔色に露わにしていたが、ようやく何かを決意したように重々しく口を開いた。
「僕はプライベート・バンカーとしては失格かもしれない。でも今まで知り得た事を並べて整理してみると、みんなが心の中で思っている1つの筋にしか行きつかないのも事実だ。僕に出来る事は可能な限りお手伝いしますよ」学の拳は固く膝の上で握られたいた。
「よし、これで役者は全て揃ったわけだ」槙原が3人を見回して言った。
    <<前へ
次へ>>

Copyright © 1999-2008 Tokyo IPO. All Rights Reserved.