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「本田さん、いくら私共がメイン・バンクとして御社とのお取引実績があってもこれ以上の融資は無理です」東名銀行・新宿副都心支店・渉外第3課・部長代理、真原裕一郎はやや語気を強めた。紺のピン・ストライプのシングルのスーツに髪を7・3に分け、銀縁眼鏡の奥からはインテリ風のクールな一重瞼の目が本田千秋を蔑む様に見つめていた。
「真原はん、そう言われてもお金がなかったらうちは潰れまっせ」本田はあっけらかんとした態度で応えた。
東大卒で理論派の真原は湧き上がる怒りを押し殺すのに苦労した。最高学府を優秀な成績で卒業したこの俺が何でこんな何の訳も分かっていない爺さんとまっとうに話をしなければならないのだ。真原は心の中で悪態をついたが、表面上は銀行マン然とした態度を維持していた。
「本田部長、御社に設定しております融資の枠は既に目一杯使われているので、これ以上の資金をご用立てする事は出来ません」真原はきっぱりと言った。
「そやったらその融資の枠を増やしはったら宜しい。違いますの」本田は悪びれる様子さえ微塵も無く、いとも簡単に言った。真原は言葉の通じない異邦人を相手にしているような錯覚に襲われた。
「申し訳ありませんが、融資の枠はそう簡単に増やせないんですよ。今の御社の借入のレベルからすると本店の審査の基準もかなり厳しくなると思われますし・・・」真原は言葉を濁した。
「真原はん、おたくうちの担当でしょう。何とか力になってや」本田は左右の掌を合わせて拝むように頼んだ。
「もうこのレベルになると私のような一担当者が決められる事ではないんですよ。残念ですが」
本田は真原が助けにならないと判ると急に態度を変えた。
「それやったらうちの社長におたくの支店長さんに頼んでもらいますわ」
「いや、支店長と話されても結局は本店の裁量を仰ぐことになりますけど・・・」真原は呆れた顔で言った。
「いや、先代の社長の時も、支店長さんに話せば何とかしてもらえましたから、大丈夫ですよ」本田はしたり顔で1人納得していた。
 
デスクの上の電話がけたたましく鳴り響いた。いつもなら電話を取ってくれるはずの秘書の川辺真樹もちょうど席を外していた。神経を逆撫でするような音が暫く続いた。市田は悪態をついて受話器を取った。
「はい、市田だが」
「大亜精鋼の大澤です」聞きなれた相手を威嚇するような声が受話器を通して聞こえてきた。市田は電話に出てしまった事を後悔したが、時すでに遅かった。市田の声のトーンが1オクターブ上がった。
「ああ、どうも。大澤さん、今日は社長直々にお電話下さるとは、どんなご用向きでしょうか」市田は大澤の出かたを待った。やや間があって、大澤の腹の底に響く凄みのある声がした。
「お電話したのは、ちょっとご相談ごとがありましてね」
市田の体の中のアラームが一斉に警告を鳴らし始めた。
「ご相談といいますと…」市田が恐る恐る訊いた。
「前にお話しました例の転換社債の返済の件ですが、うちのメインバンクの東名とも話をしたのですが、これがあまり芳しくない事をお伝えしておいたほうがいいと思いましてね…」大澤は言外に含みを持たせた口振りであった。
「それでまた市田さんに一肌で脱いでもらおうと考えておるんですよ。もちろん前回同様、お礼は手厚くさせてもらいますよ」
「しかし、いくらなんでも今の株価ではかなりちょっと…」市田は言い淀んだ。
「そこは株のプロの市田さんのお知恵があればどうにでもなるんじゃないですか、前回のようにね」
市田はそれから先の言葉が出てこなかった。市田は動揺を何とか表わすまいと努力した。
「私も出来る限りの事はさせていただきますが、全額をすべて市場から集めるのはやはり難しいでしょう。もう少し銀行の方とも交渉してもらえませんかね」一縷の望みをかけて市田が言った。
「銀行も今回ばかりはかなり頑なでね。もし、市田さんが説得して頂けるのであればそれはそれで有難い事ですが…、あいつらときたら上から下まで版で押したように同じ事しか言わんのです」
「それでは銀行の担当者の連絡先を教えて下さい」
「了解しました。うちの本田から連絡させますので。市田さん、くれぐれも宜しく頼みますよ。良い返事を待っています」大澤はそう言うと一方的に電話を切った。
 
朝岡慎介は外出先から戻ると市田の秘書の川辺真樹に言われて大会議室に向かった。ドアをノックしてから広い大会議室に足を踏み入れると、固い表情で市田昭雄と本山憲造が話しをしていた。
「すみません、外出していて今戻りました」慎介は形だけの詫びを入れると、本皮張りの椅子に腰を落ち着けた。
「どこをほっつき歩いていたんだ、この大事な時に」市田が怒鳴りつけた。慎介はそんな市田の態度を不愉快に思ったが、敢えて何も反論しなかった。
「実は大亜精鋼の大澤社長から連絡があって、例の転換社債の返済資金をまたうちで手配してほしいと言われて困っているんだよ」横に座っていた本山が状況を説明した。
「でも、現状の株価で200億円からの資金を調達するのは…」慎介が最後まで言う前に市田が遮った。
「そんな事はおまえに言われなくてもよくわかっている」市田は不機嫌な調子で言った。
「それで、なんとか少しでも銀行から借入が出来るように交渉出来ないかを相談していたところだ」
本山憲造は終始市田の顔色を気にしていた。大澤源太郎の話によれば大亜精鋼の所有する主だった資産はすべて担保に供されていて、新たな借入のために使える資産はほとんど残っていなかった。大亜精鋼に残された手立てはもう何も無いに等しかった。
本山は市田の指示で財務部長の本田に連絡してメイン・バンク東名銀行の担当者の名前を聞いて、連絡したのであるが、けんもほろろに玄関払いを食らっていたのであった。
「おい、おまえら何か思いつかないのか」市田は苛立っていた。
「あの、今回の買収したドイツの会社の資産を担保に銀行から借入が出来ませんかね?」本山はびくびくしていた。
「本山、でかしたぞ。そうだ、そうすれば新たに借入が出来るだろう」市田は小躍りする様に言った。
「でも、ドイツの会社の大概の資産は、買収の際に新たに100億円の新規借入をおこした時に担保として出されたじゃありませんか。ファイナンスのアレンジをしたときに担保設定の書類を準備したのをお忘れですか」
その記憶が市田の脳裏を過ぎった。確かに朝岡慎介の言う通りだった。これで万策尽きたのか…
市田は軽い目眩を覚え目頭を右手の親指と人差指で軽く揉んだ。深く首をうな垂れて市田は暫く考え込んだ。本山と慎介はそんな市田を黙ったまま見つめ続けた。何かに気付いたように急に顔を上げると市田が本山に命令した。
「本山、東名銀行の融資担当の責任者とアポイントをとれ、すぐにだ。こうなったらあちらさんに乗り込んで話しをつける」
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