2020年IPO総まとめレポート!
2020年 IPO総まとめレポート
~過去最低から過去最高へ。記録ずくめの1年間~
2020年は「新型コロナウイルス」とともに過ごした一年でした。「ウィズ・アフターコロナ」、「ニューノーマル」、「テレワーク」、、、いまだ猛威をふるうこの新型感染症の発生により、私たちの生活は従来のものから新たな様式へと一新されました。株式市場についても新型コロナウイルスの影響に伴い、年前半は急落することとなりましたが、緊急事態宣言の一旦の終結以降、急回復をみせ、日経平均は30年ぶりの高値を、マザーズ指数は14年ぶりの高値をそれぞれつけるなど、結果的には記録的な一年となりました。IPOも同じく、この1年で多くの歴史が塗り替えられることとなりました。記録的な1年となった2020年のIPOを振り返ります。
【レポートハイライト】
・上場社数は2008年以降で最多の93社。目立った大型案件は少なく、小粒化が進む
・承認取消し・公募割れ社数は過去最多水準も、初値騰落率も過去最高の初値騰落率に
・地方証券取引所への上場は少ない一方、業種・所在地ともにバラエティー豊かな企業が揃う
■上場社数、初値騰落率ともに記録的な水準に

先ずは全体の総括です。今年のIPO社数は前年より7社増加(+8%増)の93社となりました。一時は新型コロナウイルスの影響で承認取消しが相次ぎましたが、最終的には直近の上場社数を超え、2007年以来、13年ぶりとなる記録的な高水準となりました。
初値騰落率(画像の青線グラフ)についてです。今年の年間平均騰落率は129.9%、前年の74.8%から大幅上昇となりました。この騰落率の高さも記録的で、2005年以来、15年ぶりとなる高水準となりました。高騰の象徴として、18年のHEROZ以来となる初値テンバガー銘柄、ヘッドウォータースも誕生しています。
好調さの目立つ一方で、今年のIPOの承認取消し社数は合計で19社となり、米同時多発テロがあった2001年の20社以来、こちらも記録的な社数となりました。10月に取消したキオクシアHDを除き、ほぼ全ての企業が新型コロナウイルスの影響を受けた3~4月の間の承認&取消しです。ただ、結果的には19社のうち10社が無事、年内の再上場を果たしています。

また、今年のIPOで公募割れ(初値が公募価格を下回ること)となった銘柄は全23銘柄で、およそ4分の1の企業が公募割れという結果に。こちらも2008年の26社という記録以来、12年ぶりの記録です。これも承認取消しと同じく、23社のうち18社が3~4月に上場した企業でした。公募割れとなった銘柄の中には、NexTone(7094)や上場後にテンバガーを達成した松屋アールアンドディ(7317)等、初値から大きく値を上げた銘柄もあり、セカンダリーの観点ではある意味チャンスだったのかもしれません。
このように今年は新型コロナウイルス一色といったところで、良くも悪くも記録ずくめのIPOイヤーとなりました。
今年のIPOにおける歴史的な記録は概ね以下のとおりです。
・上場社数93社は2007年の121社に次ぐ、13年ぶりの数字
・初値騰落率の年間平均129.9%は2005年以来、15年ぶりの高水準
・承認取消し社数19社は2001年の20社に次ぐ多さ
・公募割れ社数23社はリーマン・ショック時の2008年の26社に次ぐ多さ
■資金調達額、吸収額

次にIPOで動いた資金についてです。今年の資金調達額は886億円となり、昨年から約15%の減少となりました。一方で、今年の資金吸収額は3,633億円、昨年から約12%の増加となりました。上場社数が増加した割には、1社あたりの資金調達額は減少し、資金吸収額も微増にとどまっており、近年の案件小粒化の流れは変わっていないものと考えられます。ここからは分野別にみてみましょう。
■業種、所在地はバラエティー豊か
■市場別上場社数

市場別ではご覧の結果となりました。マザーズへの上場が63社で、前年同様マザーズ偏重の傾向は変わりません。ジャスダック(JQS)への上場企業が倍増したのも特徴的なほか、非東証の地方市場への上場が少ない年でした。
初値の平均騰落率も変わらず成長市場優位となっていますが、今年はマザーズ、ジャスダックともに平均で公募価格の2.5倍の初値がついており、特に高い数字となりました。
■業種別上場社数

業種別です。こちらも情報・通信業がトップ、次いでサービス業が優位なのは変わらずです。今年は様々な業種から上場があり、全19もの業種から上場企業が生まれました。昨年も11業種と業種数は多かったですが、今年はそれを上回る数字。今年は本来ならオリンピック・イヤーというメモリアルな年の予定だったので、やはり様々な業種の有力企業がこの年の上場を狙っていたのかもしれません。
■地域別~大阪など、東京以外からの上場社数が増加~

地域別の上場社数です。東京が本社の企業は全93社中66社。シェアは約71%と、例年どおり東京から多くの上場企業が生まれました。一方で大阪が2008年以降最多となる14社の上場を記録した他、岡山や宮崎県など、今年は東京以外の府県からも多くの上場企業が生まれました。業種もばらけていますし、やはり各地方・業種からの有力企業が集合したイメージでしょうか。
■主幹事別

主幹事別です。トップは野村證券の22社、ついでみずほ証券の21社となりました。昨年トップを争ったSMBC日興証券、大和証券の2社は一歩後退。その他、SBI証券といちよし証券が大きく増えていますね。今年は大きく順位が入れ替わりましたが、新型コロナウイルスの影響による承認取消しの影響等もあるかもしれません。
■監査法人別

最後に監査法人別です。Big4が大半を占める構図には変わりませんが、トーマツのみ半減しています。所在地域がばらけたためか、Big4のシェアはやや低下、様々な監査法人の名前を見ることとなりました。
■上場取消し企業
今年の承認取消し数は19社と、2001年の20社という数字以来、20年ぶりの社数となりました(下記表より)。ほぼ全てが新型コロナウイルスの影響によるもので、キオクシアホールディングス以外は3~4月に取消しとなった先です。
ただ、1年通してみてみると、最終的には10社が再承認となり、再度上場を果たすことが出来ています。キオクシアホールディングスを筆頭に、来年以降、再度上場にトライしてくる企業も出てくるものと思います。

*黄色でハイライトした企業は取消し後、再承認され上場を果たした先
ここからは当社データベースより、2020年IPOについてのランキングをご紹介します。
■IPOランキング、初値テンバガー再び
■上場時(初値時)時価総額ランキング

こちらは初値時点での時価総額ランキングです。1位は12月に上場したプレイド(4165)は時価総額1,000億越えで、ユニコーン企業としてのデビューを果たしました。2位の雪国まいたけ、3位のローランドはともに上場廃止からの再上場案件です。

続いては資金吸収額ランキングです。基本的に時価総額の大小に比例するところがありますが、上位3社の様に、出資先のファンドの持ち分が大きい先は特に吸収額がかさむ傾向にあります。それでも初値2倍をつけたプレイドは上場時、話題になりましたね。

そして初値騰落率ランキングです。ご覧のとおり、今年は6月以降、本当に異常とも思える高騰が続きました。昨年の同ランキングトップだったウィルズ(4482)の372.39%が第9位にしかならないことを考えると、いかに高い初値水準だったかが分かります。トップのヘッドウォータースは18年のHEROZ以来の初値テンバガーを達成。やはりAI関連やDXとも馴染みなあるシステム開発といったテーマが人気のようです。今年の大きな特徴として、公募価格1,000円以下の案件が騰がりやすかった、という点もありました。
■終わりに:IPOはバブルなのか
以上、簡単ですが2020年のIPOを速報ベースで振り返りました。年初から年末まで、これほどまでに記録的で、変動の激しかったIPO市場も珍しかったかと思います。結果的に記録的な初値の高騰などが続いたことで、日本の株式市場とともに、IPOについてもバブルではないか、という声をよく聞くようにもなりました。
現状がバブルなのかそうでないのか。この情勢ではなかなか判断の難しい状況かと思います。ただ、SaaS企業に代表されるように、投資先行型で赤字状態での上場企業が増え、PERなどの従来の評価指標では測れない企業の増加や、極端に規模(資金吸収額)が小さい案件が増えているなど、IPOを取り巻く構造の急激な変化が、「バブル」という言葉で解釈されている側面もあるのではないか、と考えています。
IPOは英語のInitial Public Offering、の略称であり、ともすれば企業と投資家が最初に出会う貴重なタイミングです。これが時に海外で言われるような、「IPO=It's Probably Overpriced(それは恐らく割高な値付けだ)」だと揶揄されないよう、様々な角度からの情報提供ができればと考えております。
新型コロナウイルスの情勢、延期となった東京オリンピックが本当に開催されるのか等々、来年も不確定な要素が多くなりそうです。IPOにおいては、東証の市場再編が具体的に動き出すことや、承認取消しとなった企業の再承認、実は今年承認を延期していた企業の上場も出てくるかと思いますので、先ずはそのあたりに注目していければと思います。
2020年12月30日
※おまけ※
ここまでご覧頂いた方におまけです。
昨年2019年のIPOについて、12/29時点の終値基準での初値からの上昇率ランキングを出してみました。
TOPは新型コロナウイルスによる巣ごもり需要もキャッチしたBASE(4477)でした。初値も低かった分、上昇率は高くなっています。当然ながら、初値が低く抑えられた銘柄が上位に入っていますね。
加えて、10社中6社が12月に上場した銘柄。やはり上場社数が多いために初値が低くなりすぎた銘柄もあるのだと思います。 2021年はこういった情報もご提供できればと思います。
=ご覧頂くにあたっての注意事項=
本レポートで使用している数値は2020年12月30日時点の速報数値となります。後日数値が修正となる可能性がございますこと、ご了承ください。