東京IPO

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Vol.56「企業の本質が問われるIPO直後の決算内容は重要」

ヒラリーだのトランプだのと気ぜわしい日々が続いてきましたが、そうした米大統領選も日本時間で9日、つまり明日で結末が見えてきます。政策論議に乏しい誹謗中傷の舌戦など見ていても不愉快になる大統領選から上場企業の決算に目を向けるべき時期となってきました。とりわけIPOしたての企業にとっては上場後初めての決算発表はその後の投資家、株主との信頼関係構築にとって重要なイベントです。上場時の計画に対して上回ったのであれば、それは良し。下回ったのであればその理由を明確に示して投資してもらった株主に対して説明する必要があります。ただ、多少の下方修正はともかく、大幅な下方修正、黒字から赤字に転落するなどとなればせっかくのIPOが台無しになってしまう恐れがあります。

投資家の皆さんはそうした上場後の企業の対応と本質価値を示す決算内容を厳しくチェックしていく必要がありますが、個人的には企業が投資家を上場直後に何らかの形で裏切った場合は極端に言えば、その後2、3年程度は株価が不人気なまま推移すると考えています。こうした事態を生じることは投資家にはなかなか予測できませんが、企業にとっては本質的な企業価値を継続的に向上させていく必要があり、上場前の段階で堅めの業績見通しを示すとともにリスク要因を投資家に周知徹底する努力を行う必要があります。IPO前の上場審査ではわからなかったリスク要因が上場後に突然降って湧いたように出てくるのは問題です。過去のIPO結果を見ていますとそうした事例が年に何社かは必ず出て参ります。結果は株価のチャートに如実に示され、上場後の長期下落トレンドを示すことになります。IPOされたばかりの企業にとっては業績の変動を普段からのIR活動によって正確に投資家に伝えることは足下の業績の好不調に関わらず長期的なビジネス戦略で成長を目指すためにとても重要です。また、先行投資による足下の業績停滞が見られる場合は先行投資の意味合いや未来に向けたポジティブな活動内容を定性情報として開示していく姿勢が求められます。

さて、2017年3月期中間決算の発表やその他決算期銘柄の四半期業績の発表が今週末でピークに達しようとしています。悲喜こもごもの決算内容に皆さんの心理も揺れ動いているのかも知れません。2月24日のはてな(3930)から始まった今年のIPOは、既に11月29日のJMC(5704)まで69を数え、IPO後の株価の動きも様々。これに決算内容が伴っているのか、逸脱した株価形成となっているのか、投資家の皆さんはしっかりと吟味して頂く必要があります。業績の上方修正や下方修正が株価にどこまで織り込まれたのか見極めることになります。

米大統領選も土壇場となり日経平均はヒラリー候補の訴追回避との話で昨日再び1万7000円台に戻りましたが、出来高が伴わないやや迫力に欠けた展開となっています。為替が円安に振れるとともに株高が演出されるという無味乾燥な市場動向から個別企業の決算を踏まえた本来の株式相場に戻ることが求められます。

 

2016年11月8日 東京IPOコラムニスト 松尾範久


 

*11月1日に開催されたIRセミナーには多くの皆様に足を運んで頂きました。心より感謝申し上げます。英国風パブというユニークなコミュニケーションの場を展開するハブ(3030)の太田社長の元気な話に続いてお話しさせて頂きましたが、限られた時間でしたので十分に伝わったのか心配です。今後もIPO銘柄動向なども含め私なりの視点でまとめた皆さんに役立つ投資のヒントをお伝えしていきたいと思いますので宜しくお願い申し上げます。