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東京IPO特別コラム:「マクロンがトランプに媚び、バンスがヨーロッパに説教?:身の丈国家運営への抵抗」

米欧のあり得ない光景たち
昨今従来では考えられなかった動きが、いくつか米欧関係に見られます。米欧間の主要なつなぎ役であったイギリスよりも前に、フランスのマクロン大統領が、昨年12月まだアメリカ大統領に再任されていないトランプ氏をノートルダム大聖堂再開式典に招待し、会談に臨みました。また、今年に入り、イギリス首相が訪米する前に、マクロン大統領が訪米しました。従来、あまり見られない光景です。

一方、今年2月ミュンヘン安全保障会議において、アメリカのバンス副大統領が、米欧共通の脅威に対する今後の協力体制について語るかと思いきや、ロシアや中国以上に、ヨーロッパ内の「民主主義の後退」が問題だと主張しました。当然のことながら、出席した西ヨーロッパ諸国は反発します。

さらに、今後の軍事支援と引き換えにウクライナ国内の地下資源の提供についての協定調印のため訪米した、ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカ正副大統領によるメディアを前にした口論、その後ホワイトハウス内で予定されていた昼食会や調印式のキャンセルも、驚きの光景ではなかったでしょうか。

今回は、こうした一見あり得ない光景から、アメリカからのメッセージを読み解いてみたいと思います。

アメリカからのメッセージ:身の丈にあった国家運営をせよ
アメリカからのメッセージは、非常に単純明快です。身の丈にあった国家運営をせよ、です。ヨーロッパ単独でロシアに勝てないのだから、ロシア周辺の東欧諸国へEUやNATO参加を奨励し、ロシアの安全保障を脅かして、何を考えているのだ?いつまでもアメリカの威を借りて強気な外交攻勢をしているのではない、ということです。ロシアよりも、ヨーロッパの方が民主主義を堅持し、独裁国家とは違うと偉そうに言っても、ヨーロッパ全てにおいてそんな高い水準を満たしているわけでもない、選挙自体をキャンセルし、政権の延命措置を取っている国もあるではないか、どの口がロシア批判できるのだ?ということです。

かつてゴルバチョフ書記長が謳った「ヨーロッパの家」構想、そして独メルケル首相がロシアを孤独にさせず、ロシアから天然ガスを輸入する等の形でロシアとの健全な関係を維持しようとしたメルケル外交に戻り、身の丈にあった国家運営をせよ、ということです。

実は、再任早々トランプ政権は、NATO軍としてヨーロッパに駐在の米軍を2万人削減予定だとヨーロッパ側へ伝達し、ヨーロッパの防衛費を5%に引き上げるよう、要請しています。*その分ヨーロッパが肩代わりする意思はあるが、時間がかかると色々言い訳していたわけです。そのため、アメリカ側がしびれを切らし、バンス副大統領の演説で、どこかの番組風に言えば、「ぼーっと生きてるんじゃねえよ!」と言ったのでしょう。

ウクライナにしても同様です。いくら西欧諸国が煽ったからと言って、ロシアの隣国がロシアに配慮しない外交をしてどうする?ロシアの侵入の口実を作るような、ロシア系国民を弾圧してどうする?(この手は、16世紀以降、ロシア帝国がオスマン帝国に対し戦争をする口実に使っている、実に古い手口です)自国の国力を省みず、外国の援助に頼り続けるにも程がある、ロシアの隣国として西欧とロシアとの間でうまく共存し、身の丈にあった国家運営をちゃんとやれ、ということです。(実際、西欧が激しく煽るようになる前は、ウクライナはきちんと西欧・ロシア間でバランス外交していました)

そして、その一歩が、クリミア半島を含めすべての国土回復を頑なに要求する、ゼレンスキー大統領の従来の主張を取り下げ、アメリカが仲介する条件(ほぼロシアの要求そのまま)を受け入れるべきだ、ということです。事実、米欧からの軍事支援がなければ、ウクライナは戦争を継続できませんから、パトロン側からの当たり前すぎる最後通牒です。トランプ仲介に合意すれば、ウクライナは露骨に敗戦国と言われず、ゼレンスキー大統領自身も、不名誉な形での大統領職辞任を避けられるでしょう。

しかし、拒否すれば、頼りないヨーロッパ諸国の軍事支援で首都キーフ制圧まで何日持つかの世界でしょう。ホワイトハウスから追い出されたゼレンスキー大統領は、即行ヨーロッパへ泣きつきに行き、とりあえず何かしら形だけでも「ヨーロッパ再軍備計画」の進捗を見せてくれるショーは見せてもらいましたが、心もとないでしょう。。。

フランスの思惑
さて、アメリカがヨーロッパに対し、対米依存症からの脱却を求める中、ヨーロッパで最も真っ青になるのは、ゼレンスキー大統領以外にもう一人います。それは、マクロン大統領です。

もともと、NATOの存在意義を「アメリカを引き入れ、ドイツを下し、ロシアを入れない」と言います。その中の「ドイツを下す」という部分に、最も安心感を得ているのが、フランスです。19世紀の普仏戦争以降、フランスはドイツと単独で勝てたことはありません。第一次、第二次世界大戦でも、英米に救われ、かろうじて「戦勝国」を演じているだけです。

とはいえ、ロシアの脅威も否定できず、ドイツには対ロシアでは巨大な鉄壁であってほしいが、対フランスにはルクセンブルグのように安心できる隣国であってほしい、と自己矛盾した感情を本音のところでは抱いています。

しかし、第二次世界大戦後アメリカはヨーロッパから軍を引き、イギリスが大英帝国に目を奪われ、ドイツは戦後の混乱に苦しんでいる間に、フランスはヨーロッパのリーダーになれるチャンスに恵まれました。その後、冷戦体制が始まり、ドイツ再軍備を呑む代わりに、NATOを受け入れ、何かあれば米軍がドイツを下してくれる、と自らに言い聞かせたのでした。その上で、「戦勝国」フランスは、身の丈以上の高慢な態度で「敗戦国」にしてヨーロッパ経済の中心であるドイツに対し、経済的提携から始まり、今日EUという枠組みの中で、ドイツ経済の恩恵を受けつつ、謙虚なドイツと共存しています。

そして今、そもそもの前提である、「下す」はずの米軍というタガが、トランプ時代にほぼなくすというのです。

加えて、さらにフランスを苦しめるのは、ドイツの極右化現象です。フランス自体にも同様の現象はありますが、ドイツの極右勢は、ナチス政権の歴史を肯定する人々ですから、従来のドイツの謙虚さがなくなり、フランスにそこそこの発言権があったEU、NATOといったヨーロッパ諸機関は、今後ドイツが仕切り、フランスの発言力は凋落する―そんな未来が見えてきます。

恐らく、マクロン大統領は昨年からトランプ大統領に、上記の懸念事項を伝えているでしょうが、アメリカ自体の支出を削減し、自ら身の丈国家運営をしようとしている人物には、馬に念仏だったでしょう。フランスもウクライナ同様、隣国ドイツと、さらにはロシアと共存関係を築け、と反論されたでしょう。

一方、トランプ大統領は、ドイツの極右勢力を恐れてはいません。恐らくナショナリストとして理解しているからでしょう。ナショナリストであれば、外国に安全保障を頼り、安全保障上の制約(駐独NATO米軍)を取り払い、自らの力で自らを守ることを良し、とするはずですから。これは、アメリカからすれば、ヨーロッパの対米依存症症からの脱却です。このように考えれば、トランプ大統領の親友、イーロン・マスク氏が極右派へエールを送るのも理解できます。

そこで、今年に入りマクロン大統領自ら訪米し、盟友のイギリス首相や、ゼレンスキー大統領に訪米させても、トランプ大統領の意志は変わらないことを確認し、ヨーロッパ内でできることを見せ、トランプ大統領からもっと前向きな発言を獲得しようとしています。一方、マクロン大統領が、フランスの「核の傘」を他のヨーロッパ諸国に分かち合おうという発言は、ドイツからフランスの発言力を奪われまいとする、悪あがきの一環と見ていいでしょう。

ヨーロッパ・ウクライナを他山の石と見るならば
もし日本に身の丈にあった国家運営を求められたら、どうでしょう?それは、中国、ロシア、北朝鮮との関係修復を意味します。何せ、大西洋よりも「大きくて美しい」太平洋が、日本とアメリカの間にはあります。関係修復するということは、中国側に付くことでもあります。

日本単独で戦うには、中国軍は物量、兵員数の面で絶対に適いませんし、北朝鮮も核保有を諦めることはないと明言していますから、無理でしょう。そうした国に立ち向かう術は、もはや外交で仲良くやっていくということに外なりません。ただ、アメリカに捨てられたから、中国に仲良くしましょう、と言っても足元を見られるだけであることは、明らかです。

ある程度の自衛力を持った上での関係修復が、日本にとり、望ましいです。そのためには、核保有が最適解と言わざるを得ません。米軍が去るとなれば、日本にある核アレルギーが、とかナイーブなことを言っている場合ではありません。

しかし、日本の核武装をアメリカは容認するでしょうか?トランプ大統領でしたら、直観的な回答はYesでしょう。それは合理的な選択ですから。

しかし、アメリカの既存有識者は異を唱えるでしょう。日本がアメリカの「核の傘」から離れれば、日中で何をしでかすか分からない、また核不拡散、別名既存核クラブ国の優位性維持という観点からはよくないですから。そういう声を歴代アメリカ大統領は聞き入れ、日本も国内の核アレルギーを放置し、今まで「平和ボケ」と言われてきました。

さて、トランプ大統領の直観的な回答はYesですが、最終回答は何でしょうか?それは、トランプ大統領がどう中国と向き合うか、によります。対ロシアについては、プーチン大統領と直接取引をすることで、特別ヨーロッパが必要というわけではありません。但し、ロシアがアメリカの言うことを聞かない場合、ロシア産資源を買わないよう、国際社会にプレッシャーをかければ、天然資源を売るしか経済が回らないロシアは、最終的に屈します。

しかし、対中国については、トランプ大統領には決定打はありません。まずは中国からロシアを遠ざけ、伝統的なアジアの同盟国と結束し、かつ中南米の麻薬マフィアを排除する名目で、同地域への政治・軍事介入を辞さず、アメリカの方針を遵守させることで中国を孤立させ、アメリカからは関税を高くし、最先端技術が中国に流出しないよう、対中包囲網を作ることで、中国をできる限り弱体化しようとしています。

しかし、お山の大将的な性格のトランプ大統領が望むような、決定的にアメリカが中国よりも優位であると「誇示」できるような場面は作れないでしょう。

だから、対中包囲網の重要な一角を担う、日本や韓国の協力が不可欠なのです。そこが、トランプ大統領の泣き所です。このように足元を見るなら、防衛費増額を求めるアメリカに、日本の核武装を容認させる、いいチャンスなのです。特にトランプ大統領は、あまり既存の有識者の言うことを聞かず、独自の判断で動く人物ですから、ますますよい機会です。

* “Trump aims to cut US force in Europe by 20,000, compel subsidies from allies, Italian report says”, Stars and Stripes, January 24, 2025.
https://www.stripes.com/theaters/europe/2025-01-24/trump-europe-troop-cuts-16590074.html




吉川 由紀枝???????????????????? ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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