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東京IPO特別コラム:「日米同盟のデメリット」

前回、日米同盟のメリットを書いたので、その続きとしてデメリットについて考えたい。

日米同盟のデメリット
前回のおさらいとして、日米同盟のメリットは、同盟国が世界最大の軍事大国であるから、
というだけの理由に立脚していないことを確認した。当節、戦争とは軍事だけの問題では
ない。総力戦なのだ。よって、軍事力を支える自国、友邦の経済力及び世界への発言力、
外交力のフルセットで戦う。この点を念頭に考えていこう。

1. 覇権コストの分担
冷戦中は2超大国の1つ、冷戦後は単一覇権国として、世界にその影響力を発揮している。
覇権と言えば聞こえはいいが、覇権を維持するために掛かるコストは膨大だ。その筆頭が、
戦争である。すなわち、世界のどこかで紛争の種、あるいは紛争が発生すれば、あるいは
自国企業の利権、あるいは国家の威信へのリスクだとなれば、アメリカ軍の介入が求めら
れるということだ。

第二次世界大戦以降アメリカの直接戦争を挙げれば、主要なものだけでも朝鮮戦争、ベト
ナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争であり、その他軍事支援も含めば、
台湾海峡危機、中東戦争、イラン・イラク戦争、ソ連のアフガン侵攻、ウクライナ戦争等、
このリストはもっと長くなる。

幸い、アメリカは第二次世界大戦時の大英帝国から多くの覇権維持に関わる資産、特に海
軍基地をベースに、世界の要所々々に米軍基地を保持している。日本のみならず、韓国、
シンガポール、ハワイ、グアム、オーストラリア、インド洋の英領ディエゴ・ガルシア諸
島、イラク、クウェート、ギリシャ、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガ
ル領アゾレス諸島、西インド諸島等、文字通り世界にまたがる米軍基地ネットワークがあ
る。これにより、例えばイラク戦争で急遽多くの軍人、物資を輸送するとなっても、スピ
ード、物量の面からも、絶大なサプライチェーンの威力を発揮する。この資産に匹敵する
ものは、世界のどの国にもない。

確かに、このサプライチェーン・ネットワークは、戦争コストを安くする。しかし、この
ように頻繁に行われれば、アメリカ一国で賄うことは難しく、日本を始めとする同盟国に
応分の資金援助、又は派兵が求められる。アメリカ占領時代から変わらない「平和憲法」
を盾に、日本政府はなるべく資金援助と、在日米軍基地利用許可という形で協力してきた。

なお、日本と交戦相手ではない国との戦争目的で在日米軍基地を利用する場合、日米同盟
の範疇を越えるのであるから、本来日本政府の許可が必要である。なぜなら、この行為は、
アメリカの交戦国からすれば、敵国アメリカを軍事支援しているわけで、日本を敵国とみ
なし、報復措置として日本を攻撃してもおかしくはない。いわゆる、「巻き込まれるリス
ク」だ。たまたま、今まで日本に直接攻撃がなかっただけで、未来永劫このリスクは顕在
化しない保証はない。本来都度、国民レベルで真剣に考えるべき話なのである。

話を戻して、実際にどれほどの資金援助をしているかを測定する場合、日本政府の特別支
出をだけをみればいいわけではない。日本銀行が米国債を購入するという形で、アメリカ
政府が濫発する米ドルの価値低下を防ぎ、その購買力を高い状態に維持しているからだ。
(2024年4月時点、日本銀行は世界第一位の約1.17兆ドル保有*)

すなわち、アメリカ政府は戦費を賄うため、米ドル紙幣と同額の国債を大量発行する。す
ると、普通であれば米ドルの価値は下がるはずであるが、日本やヨーロッパ等アメリカ市
場に参入している国々は、自国製品がドル安(円高)の影響でアメリカ市場では割高にな
ってしまう。よって、日本の場合は日本銀行が米国債を大量購入することによって、為替
相場への影響を相殺する仕組みとなっている。

だが、この仕組みはどこまでサスティナブルなのだろうか?

アメリカ覇権の凋落が近年見えてきている。イラク戦争後のイラクではイランの影響力が
逆に増した。オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官ではない」と発言し、ロシアに
よるクリミア併合に介入しなかった。バイデン政権下でアフガン戦争から完全撤退した。
少なくとも中東では、アメリカの影響力の低下は隠せず、その力の空白をロシアが早くも
埋めている。

こうなってしまうと、国際政治理論でいうところの新興国、すなわちアメリカ覇権へのチ
ャレンジャーが様々な形でその弱点を露呈させようと努力し、老大国アメリカはその威信
を示すべくますます軍事力に頼る確率が増え、その度に日本への請求金額も同様の傾向と
なることが容易に予想される。

一方、過去日本は世界第2位のGDPを誇っていたが、それも第4位にまで転落している。
日本も決して、潤沢な資金があるわけではない。

2.アメリカ依存症
日米同盟のおかげで、日本は防衛費を低く抑えることができた。これがこの同盟のメリッ
トの一つであると前述した。また、覇権国の近くにいると、アメリカの向かいたい方向性
や日本が興味を持つ情報教えてくれるということが、日米同盟のメリットの一つであると
も前述した。

しかし、メリットではあるものの、あまりに依存しすぎると、それはそれでいいことでは
ない。そもそもの思考回路が、(日本の必要な軍事力)−(米軍が提供予定の軍事力)=
(自衛隊に求められる軍事力)であり、米軍が敵国への攻撃を分担する以上、自衛隊の役
割はどうしても、米軍への後方支援(物資提供、在日米軍基地防御等)や、掃海機能等米
軍が比較的弱い分野に強くなるよう設計されてしまう。これでは、いつまでも米軍の付属
品、補強品に過ぎず、いびつであると同時に、コスト相応に軍事力が身に付かない。
(GDPの1%以内といえども、軍事費支出額でいえば、2023年時点世界第10位であ
る*)要するに、自衛隊は独立独歩するように設計されていない、ということである。

このように自衛隊はいびつな軍隊でよいのかを問うこと、言い換えれば、本当にアメリカ
は日米同盟での盟約の通り、日本防衛するのか?という問いを考えなければならないだろ
う。前回、少なくとも冷戦中はその可能性が高かったという話をしたが、冷戦後はどうだ
ろうか?

ここで想定する敵国が、誰かによるだろう。2022年米空軍による米中戦争シミュレー
ションでは、米軍は敗北するという結論になった。***(但し、台湾を巡る戦いの場合は、
勝利すると別の米シンクタンクは結論付けている。****)勝利が難しいことが分かってい
る中華人民共和国との戦いに、米軍が参戦するか、そしてどの程度の協力があるかは、そ
の場の状況次第と、リスク管理の観点から考えるべきだろう。(安全保障とは、究極のリ
スク管理である)

但しその場合、NATO加盟国を中心としたアメリカの同盟国を動揺させる。アメリカはヨ
ーロッパを守らないのではないか?という疑惑を生み、親欧米と親露のはざまでさまよっ
ている東ヨーロッパ諸国及び旧CIS諸国を、親露路線へ走らせる。それでも構わないとす
るほどに、アメリカが覇権を切り捨てる覚悟があるか否か、がポイントとなる。

なお、今時想定される国家間戦争とは、まず軍事施設の「神経系統」(軍事衛星や、軍司
令部と各部隊間やミサイル防衛システム等主要軍事システムとの通信ネットワーク)をハ
ッキング等により寸断し、軍事施設や重要施設(日本の場合、こうした施設は「重要防護
施設」と指定されている)を破壊かハッキングによる停止に追い込んでから、周辺の制空
権、制海権を確保する。その上で、ほぼ敵国に乗り込んでも抵抗されるリスクを大幅に下
げてから、上陸作戦である。

そこで、「専守防衛」に徹する自衛隊能力と合わせて考えれば、第一撃波でのハッキング
対策が死活問題であり、日米の軍同士の通信ネットワーク自体は、日米双方の努力が必要
だとしても、国内側の準備は充分とは言い難い。また、2011年の東日本大震災の際に
も一部露呈したが、官邸、重要施設(この場合は原発)を持つ企業との非常時の連携が、
悪意ある外部の介入がなくても弱い。(有事の際には、どの政党が官邸の主でも、機能し
なければ意味がない)

次に、自衛隊がハリネズミのように国内を守っている間に、米軍が敵国基地を攻撃するシ
ナリオだが、米軍が来ない場合、第一撃波で破壊されなかった自衛隊の残存機能だけで、
いつまでも国土防衛ができるわけではない。自力で敵国の軍事基地を攻撃しなければなら
ない。そして、この根幹機能を、自衛隊は現在まで充分に装備していない。

だから、防衛費を増額する、そのための増税が必要だ、財源はどこだ、という話が浮上す
るのである。これに対し、少なくとも岸田政権は、この問題を次期政権へ棚上げしている。
しかし、あまり悠長なことをいっていられない、重要課題なのである。

では、外交力で戦争回避を模索しようと考える読者もいるかもしれない。次項にて外交に
ついて考えてみよう。

3.交際相手への制限
日本の外交力を考える前に、まずは日米同盟がもたらす制約について検討したい。

日米同盟ゆえというよりむしろ冷戦体制下での制約ではあったが、共産圏との経済交流は、
コメコン(対共産圏輸出統制委員会)等の形で、制約された。冷戦終結により消滅したも
のの、依然としてアメリカが敵視した国へは、国際経済制裁という名の下に制限されてい
る。

近年の代表例が、イラン革命後のイランだろう。穏健派ロウハニ大統領時代の2004年、
日本企業がイランのアザデガン油田の75%権益を得た。しかし、2005年タカ派アフ
マディネジャド大統領が選出され、アメリカとイランとの関係が悪化すると、アメリカは
日本にこの権益を手放すよう、圧力をかけた。数少ない石油権益だっただけに、日本は涙
を呑んでその権益を10%に下げた。*****

そして同様のリスクが、ロシアのサハリン2プロジェクトにも当てはまる。ウクライナ戦
争により、アメリカがロシアの外貨獲得ルートに対し神経を尖らせている。(2024年
3月時点、日本企業はまだ権益を維持している状態)******

なお、こうしたリスクは例外的と考えるのは、早計だ。前述の通り、アメリカ覇権の凋落
が見えるほど、中国やロシアのようなチャレンジャーが、アメリカが中心となって築いて
きた「国際」的な価値観・秩序に反する行為を、これからますます行うことが予想される
からだ。

特に、中国との関係が今後熟慮の対象となる。中国市場は魅力的だが、政治的リスク(米
中関係の悪化により、中国が日本にも反発、嫌がらせ行為を行うリスクと、中国国内での
騒乱リスクの二重の意味で)が高い。

まずは、中国けん制を考えるなら、中国周辺国との連携が重要だ。しかし、中国の北部と
西部に関しては、くさびは打ち込みにくい。北部はロシア、北朝鮮、モンゴルだ。ウクラ
イナ戦争の関係で中朝とロシアは良好な関係であるし、モンゴルはロシアにガスや電力を
依存している立場上、2024年国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているプーチン
大統領を引き渡すことなく受け入れた。*******また、西部の中央アジア諸国にとり、中
ロは主要産業であるエネルギー資源を購入してくれる大口顧客だ。中央アジアから南へと
下り、インド、パキスタン、イラン辺りの海岸までのパイプラインが何本か稼働しない限
り、欧米側につくことは難しい。

そこで、中国の南部と東部にある近隣はといえば、韓国、台湾、東南アジア、インド、ア
フガニスタン、パキスタン辺りとなろう。では、これらの政府と、日本はどれほど太いパ
イプを持ち、いざとなれば共同戦線を作ることができるのだろう?

また、日本同様、中国は石油輸入大国であり、中国のスイートスポットだ。そして中東、
中東以外の産油国政府と日本はどれだけ太いパイプを持ち、中国をけん制できるのだろう
か?

イランを除けば、上記の国々と日本が緊密になってはいけないと、アメリカに言われない。
しかし、上記の問いが心もとないものでしかないのなら、それはアメリカ依存が強いあま
り自らの努力を怠ってきた証拠でしかない。

* 「2023年軍事費ランキング、脅威への備えが顕著に」第一生命経済研究所、2024年5月2日。https://www.dlri.co.jp/report/ld/333796.html
** “Foreign holdings of US Treasuries hit record high; Japan holdings rise, data shows”, Reuters, April 17, 2024. https://www.reuters.com/markets/us/foreign-holdings-us-treasuries-hit-record-high-japan-holdings-rise-data-shows-2024-04-17/
*** David C. Gompert, Astrid Stuth Cevallos, Christina L. Garafola, “War with China: Thinking through unthinkable”, Rand Corporation, 2016.
**** NBC, “War Games: The Battle For Taiwan”, May 29, 2022.
https://www.youtube.com/watch?v=qYfvm-JLhPQ
***** 「アザデガン油田撤退、中東外交に残すツケ」、日本経済新聞、2010年10月27日
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM25021_W0A021C1000000/?msockid=1651d75cd9d062873cc6c753d83a637f
****** 「ロシア極東の「サハリン2」、ガスプロムが新たに株式取得へ…ウクライナ侵略でシェルが撤退」、読売新聞、2024年3月26日
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240326-OYT1T50064/
******* 「プーチン氏がモンゴル訪問、逮捕状が出てから初めてICC加盟国へ 歓迎受ける」、BBC、2024年9月4日
https://www.bbc.com/japanese/articles/cd73wrejvrvo




吉川 由紀枝???????????????????? ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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