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東京IPO特別コラム:「次期アメリカ政権の外交政策の見通し」

少々気が早くもありますが、ある程度外交顧問の顔ぶれが出揃っているので、民主党と共和党が次期大統領を出した場合の外交政策の見通しを考えてみましょう。

民主党の見通し:周辺人物が主導、バイデン政策の継承
ハリス候補自身は外交経験が浅く、特に強い意見があるわけではありません。そのため、現在の外交顧問の意見が強く反映されると目されています。

そんな外交顧問のうち、クリントン政権以来外交畑を歩き、現在ハリス副大統領の国家安全保障補佐官であるフィリップ・ゴードン氏は、米「フォーリン・アフェアーズ」誌に以下のような趣旨の論文を寄稿しています。*すなわち、アメリカは何度も中東に「政変」を起こし、民主的(親米)政権を樹立させようとしては、失敗してきました。そこから学ぶべきは、アメリカが世界に与えられる影響力は、世界が思うほどに大きくはない、ということです。

また、現在ハリス副大統領の国家安全保障副補佐官、元レベッカ・リスナー氏は、さらに一歩踏み込み、アメリカの単独覇権の衰えを背景に、新たな考え方、オープン・ワールドを展開しています。そこでは、各国の政治的独立の尊重を挙げ、さらに彼女がいうグローバル財、すなわち資源へのアクセスが保障される世界の維持を謳っています。**

すなわち、民主主義ではないからといって、アメリカが無暗に派兵し、親米政権を樹立する画策はやめ、アメリカのコアな国益は、世界に遍在する各種資源へのアクセスを確保することと再定義し、特定の資源国がアメリカ(とその同盟国)に資源を売らないというような事態を避ける外交が第一だということです。また、既存国際秩序の補強として、宇宙やサイバー分野での新たな国際ルールの構築を訴えています。

アメリカの国力低下を素直に認めていますから、ウクライナ戦争では、バイデン政策を継承し、今後も米軍を派兵することはないでしょうが、議会が許す限り、武器類支援は継続するでしょう。また、潜在的競争相手という認識がアメリカで定着した今日、中国に対し宥和的なことを選挙の年にいいにくいのですが、中国政府とコミュニケーションを取りつつ、米議会が中心となり経済摩擦を起こす流れが、継続されるものと考えられます。(但し、バイデン大統領が習近平主席と長年かけて築いた人間関係までは引き継げないでしょうから、以前ほどスムーズにいかないことは予想されます)

共和党:トランプ政権1期目と同様、トランプ劇場第二幕
トランプ元大統領は、その支持層があまり外交政策に興味がないと思っているのか、あまり外交政策について語りませんが、トランプ政権1期目同様の手法で外交が展開されると、多くが予想しています。

すなわち、アメリカ・ファースト、「crazy」と言われるほどの自由な言動、「強い男」の演出が、そのトレードマークとなります。民主党寄りのNYタイムス紙に言わせれば、その実態とは、週末に大口献金者か外国のリーダーと電話会談をしては、新しい政策や政策変更をツイートし、週明けにホワイトハウスや国務省職員が大わらわになり、対応し始めたそうです。トランプ政権で最後の国家安全保障担当補佐官となったロバート・オブライエン氏に至っては、週末におけるトランプ大統領のツイートをプリントアウトし、毎週明けにオフィスに持っていき、部下にこの発言と整合する政策を考えるよう指示していたという有様でした。事実、週末トルコのエルドガン大統領による依頼を受け、米軍の北シリアからの撤退が決断されたと言います。***

そうはいっても、トランプ元大統領周辺で意見を求めるであろう人々の顔ぶれからは、少なくとも政権初期に何をしようとするかを、ある程度推測できます。

まず、1期目に国家安全保障会議議長を務めたケイス・ケロッグ元陸軍中将は、ウクライナ戦争の早期終結のため、ロシアと交渉すると言います。ウクライナのNATO加盟を認めない一方、ロシアとウクライナ間の停戦までは、ウクライナへヨーロッパ諸国ともに軍事支援を継続すると言います。****

また、中国に対しては高関税、最先端技術輸出規制、コンテンツ規制等による現代版封じ込め政策をしつつ、アメリカの軍事力を再強化することを提唱しています。もちろん自国だけでなく、台湾の防衛費がGDPの3%であることを引き合いに出し、同盟国である日本や西欧諸国にも同様の貢献を求めています。さらに、中国を意識した米軍の世界展開比重を見直し、大西洋寄りから太平洋へと、海軍や海兵隊のさらなるアジア駐留を提唱しています。*****

中国と並んで問題視しているのは、イランです。1期目同様イスラエル支持なので、イスラエルの敵であるイランは、アメリカの敵となり、アメリカの同盟国であるサウジアラビア等スンニ派諸国をアメリカに引き付ける上で、有効でしょう。

結局どっちもどっち
どちらも、アメリカの国力低下を踏まえ、孤立主義ではなく、中国を仮想敵国とまでは言わないまでも問題として捉えています。民主党は、インテリ層らしく、アメリカのコアな国益がどこにあるのかを再定義し、そこに注力しようとしています。国力が低下した国には必要な議論ではあり、大変よいことだと思いますし、共和党にはない、中長期的な視点で新しい問題(後述)を捉え、現状の問題点への改善を検討している点は評価できます。

しかし逆に取ると、資源確保以外は妥協の余地ありとして、挑戦者にこの隙を突かれるかもしれません。また、理想像への実現方法があまり示されず、中国やロシアに意図がよく伝わらないまま、目の前の現実問題に引きずられる危険があります。

一方、共和党はトランプ元大統領という強烈なキャラクターで、アメリカを強く見せつつ、案外常識的に動いているように考えます。同盟国にはアメリカ依存からもっと自立するように強く求め、戦争という国力疲弊を招く手段ではなく、封じ込め政策、高関税、最先端技術移転防止等、いささかさび付いてはいるものの、プルーブン(過去成功が証明されている)、または分かりやすい方法で紛争抑止、終戦を模索しています。そのため、中国やロシアに誤解がないようなメッセージの発し方だと言えます。

但し、共和党の問題は、中国はソ連ではないので、対ソ連と同じ手法で対応しようとしていいのか、というそもそもの議論がないことが一つあります。ソ連と異なり、中国経済はアメリカを含め世界と遥かに深くつながっており、ソ連の時と同じ調子で封じ込めが実現できるとは限りません。

加えて、新しい問題に対する対応策については、トランプ大統領の独断と偏見の行動に、周囲の人々や国々は大変な苦労をするでしょうし、特に後述するような、大きな問題である場合、チーム内の知恵を最大限に集めなければならないときに、能力よりも忠誠心を軸に人事を考え、独断性が高いリーダーでは、対応が不十分となる危険性が高いです。

新しく大きな問題:BRICS+という存在
ちょうどそのような問題が、実は今浮上しつつあるのです。すなわち、BRICSです。元の加盟国である中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカの他に、2024年からイラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、エチオピアが加わりました。2023年時点で、世界人口の約45%を、世界GDPの26%を占めます。******この他、加盟国に準じる形で別途パートナー国として、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、トルコ、アルジェリア、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバの13か国がその候補として報じられています。(但し、2024年サミット時に公表せず)*******

そして、以前お話しました通り、BRICSは米欧中心の経済圏とは別個の経済圏を作ろうとし、域内では自国通貨による決済を目指しています。その貿易の大きな柱として、石油があります。域内だけで、世界の石油生産の約30%を、石油消費の約33%を占めます。********さらに2024年10月、プーチン大統領が、BRICS内での穀物取引を提唱しました。BRICS加盟国だけで、世界の穀物の生産、消費シェアが共に約44%です。*********

エネルギー、食料安全保障の観点で考えれば、米欧社会に有利な対米ドル換算ではなく、人民元あるいは自国通貨ベースで、また米欧に有利な国際市場ではなく、各国が持てる資源を、バーター取引又はBRICS域内価格で、融通し合う仕組みは、加盟国、パートナー国には新しい選択肢として、魅力的に映るでしょう。エネルギーや食料は、万民が必要な消費財ですから、これらの確保は豊かではない国ほど、死活問題です。

この他、プーチン大統領は、米欧中心の国際秩序はもはや現実にあっていないものとして、ブレトンウッズ体制の二本柱である世界銀行、IMFもそのトップは必ずそれぞれアメリカ人とEU出身者である点を問題視し、この体制を否定しています。ただ、国連は国際社会の中心にあるべきと考えているようで、こちらは改革を訴えています。拒否権を持つ国連安全保障理事会常任理事国の5か国のうち、イギリスやフランスは世界比でいえば人口が小さいのに対し、遥かに人口の多いインドやアフリカが含まれていないことを例に挙げています。**********

このように、アメリカがG20を創設し、グローバルサウスを一部取り込もうとした以上に、中ロはグローバルサウスを彼等により近い目線で、米欧の痛いところを突きながら、取り込もうと努力しています。特に、資源を意識した仲間作りをしています。そして、有限な資源の多くは、グローバルサウスに偏在しています。こうした新しい現実にうまく対応しようとするのは、民主党側でしょうが、直近の世界の安定を実現すべく、より中ロのリーダー達と渡り合えるのは共和党側と考えられ、悩ましい限りです。

* Philip H. Gordon, “The False Promise of Regime Change”, Foreign Affairs, October 7, 2020.
https://www.foreignaffairs.com/articles/middle-east/2020-10-07/false-promise-regime-change

** “Grand Strategy and An Open World, With Rebecca Lissner”, Council of Foreign Relations, September 22, 2020. https://www.cfr.org/podcasts/grand-strategy-and-open-world-rebecca-lissner

*** David E. Sanger, “Trump Had an ‘America First’ Foreign Policy. But It Was a Breakdown in American Policymaking”, October 31, 2024. https://www.nytimes.com/2024/10/31/us/politics/trump-foreign-policy.html

**** “Former Trump NSC official explains his vision for ending war in Ukraine”, Voice of America, July 25, 2024.

https://www.voanews.com/a/former-trump-nsc-official-explains-his-vision-for-ending-war-in-ukraine-/7712184.html

***** Matt Pottinger and Mike Gallagher, “No Substitute for Victory: America’s Competition With China Must Be Won, Not Managed”, Foreign Affairs, April 10, 2024.

https://www.foreignaffairs.com/united-states/no-substitute-victory-pottinger-gallagher;

Robert C. O’Brien, “The Return of Peace Through Strength”, Foreign Affairs, June18, 2024.

https://www.foreignaffairs.com/united-states/return-peace-strength-trump-obrien

******国連データバンク(https://databank.worldbank.org/)を基に著者試算。(extracted on November 3, 2024).

******* JETRO調査部国際経済課, 「BRICS、「パートナー国」創設で拡大へ」、2024年10月31日。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/10/cfad94d12688624c.html

******** Zongyuan Zoe Liu and Nadia Clark, “Why Expanded BRICS Is Backing a Russia-Initiated Grain Exchange”, October 31, 2024.

https://www.cfr.org/blog/why-expanded-brics-backing-russia-initiated-grain-exchange

********* “Oil Production By Country”, Datapanda.org.; “Oil consumption, 2023”, ourworldindata.org を基に著者試算。(extracted on November 3, 2024).

https://www.datapandas.org/ranking/oil-production-by-country#core

********** Ben Norton, “BRICS grows, adding 13 new 'partner countries' at historic summit in Russia”, Geopolitical Economy Report, October 26, 2024.

https://www.youtube.com/watch?v=wUdlzmk73Ns




吉川 由紀枝???????????????????? ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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